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広島高等裁判所 昭和39年(ラ)55号 決定

再抗告人 神坂哲

相手方 国

訴訟代理人 福島豊 外二名

主文

本件再抗告を棄却する。

理由

再抗告の理由は別紙のとおりである。

管轄違に関する論旨について。

本件のごとき国営施設利用の費用は、会計法の定めにしたがつて徴収すべきもので、同法第六条、予算決算及び会計令第二九条によると、その支払は納入告知書に指定された納付場所においてなすべきであるところ、本件医療費の納入告知書には納入場所として「日本銀行本支店代理店歳入代理店又は収入官吏」なる記載があり、右の収入官吏は国立岡山療養所所属職員たる出納官吏を指すものであることが再抗告人の主張及びその援用する乙第四、第五号証の記載に照らし明らかである。そして、本件債務は私法上の債務というべきであるけれども、民事訴訟法第五条にいう義務履行地にあたるべき債務弁済の場所については、会計法の納入場所に関する前記諸規定が民、商法の債務弁済の場所に関する規定に優先して適用されるものと解すべきである。したがつて、本件納入告知書に納付場所と指定された収入官吏の所属庁たる国立岡山療養所所在地が民事訴訟法第五条にいう義務履行地の一つであることは否定できず、右療養所所在地をもつて同条にいう義務履行地であるとした原審の判断は正当に帰し、原審の右判断に、所論の理由不備ないし理由齟齬はないものというべきであり、また決定に影響を及ぼすことが明らかな法令違背をも見出しがたく論旨はとるをえない。

民事訴訟法第三一条による移送に関する論旨について。

再抗告人が原審において提出した昭和三九年一〇月一四日付準備書面に「追つて民事訴訟法第三一条による移送申立却下の原決定に対する抗告理由を提出する」旨の記載のあること及び原審がその提出を待たずに原決定に及んだものであることは所論のとおりであるが、右の如き場合に抗告裁判所は追加抗告理由書の提出を待たなければ裁判できないわけのものではないから、原決定に所論の如き違法があるとはいえない。その他原審の審理手続に決定に影響を及ぼすことが明らかな法令違背があるとは認めがたく本件訴訟を再抗告人の住所地を管轄する裁判所に移送しなければ再抗告人に著しい損害が発生し、または著しく訴訟が遅滞するおそれがあるとは認めがたいとの原審の判断は、原決定引用の移送申立却下決定の理由に挙示された事実関係のもとでこれを是認しうるところであり、原審の右判断に所論の理由不備、理由齟齬の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、本件再抗告を棄却すべく主文のとおり決定する。

(裁判官 松本冬樹 胡田勲 長谷川茂治)

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